百万本のバラ。

楽曲との縁というのは不思議なもので、長年何気なく接してきた曲が全く新しい顔を見せてくれる、という体験が時々あるものです。

加藤登紀子さんのコンサートに出演するチャンスがありました。合唱団の一員として「百万本のバラ」を歌ったのです。

正直、この歌は「聴くとひたすら切なくなる」のであまり好みではありませんでした。
だってあんまりじゃないですか?家を売ってバラを買って、片想いの相手に贈ったけど報われなくて、たった1日のことで全てを失ったわけだよ?

…という歌だと思っていたのです。
でもリハーサル本番と、ご本人の歌やお言葉を聞いて、なるほど目からうろこ!と深く納得するところがありました。

バラの花を「恋愛を成就させるためのツール」と捉えると、この歌の本当のところはわからないのだと思います。
バラの花は、絵描きの「表現」だったのです。
広場に百万本のバラを敷き詰めて、それを窓から憧れのひとが見ている、という「絵」を彼は表現したかったのだと。それは一刻で儚く消えたかもしれないけれど、絵描きの心にはそれこそ墓場まで持っていける財産として、残ったのだと思います。

しかし彼は、その気持ちを絵に描こうとはしなかったのだろうか?
いや、多分したでしょう。
自分の画力では足りないと思ったのかな。うーん切ない。
現在進行中の恋という気持ちは、翌日には消えちゃうような「ナマのもの」でなければ表現できないと思ったのだろうか。
そしてこの人は、その表現のために家も画材も売ったというのです。
表現者のさがというのは恐ろしいものです。。。

この絵描きが死んで焼かれたら、紅い骨が残るのではないか、と思いました。


くらちかべしんぶん

ボイスアーティスト倉地恵子から皆様へ。